ゆきちゃん動物病院へ

ゆきちゃんとの出会いの続きになります。

 

ゆきちゃんの受け入れ準備が整い、その間ゆきちゃんを預かってくれていた「猫のお母さん」のうちまで迎えに行きました。なんと「猫のお母さん」のおうちには10数頭の猫がいました。ゆきちゃんは流石にまだ数日なのであんまり馴染めていないようでした。

 

「猫のお母さん」と今後の相談をして、まずは引き取ったその足で病院に連れて行くことにしました。「ここからバスに乗って、どこどこで降りたらすぐ近くに動物病院あるからねっ」て教えてもらい、ゆきちゃんに用意して来たキャリーバッグに入ってもらってお礼を言い、僕とゆきちゃんはバスに乗りました。

 

ころころと環境が変わるせいもあったでしょう、ゆきちゃんやはり不安なようで、バスの中でずっと泣き通しです。他の乗客の方々に迷惑をかけていないかと自分もずっと心配し通しでしたが、15分ぐらいで目的地に近づきました。とにかく早く降りたかったのでバス停の少し前で席を立ち、目的地直前の信号で止まったため、運転手さんにもうお金を入れて良いか聞きました。すると駄目だと。信号待ちで止まっていたとはいえ、運転中に話しかけたのもいけなかったのだと思います。しかし、そのあと思わぬ一言を言われてしまいました。

 

運転手さん「俺、猫嫌いなんだよ。そんな猫が見えるケースに入れて乗せるなよ!」とのことでした。布製のキャリーで四方がメッシュだったと思います。しかし、ちゃんとした猫用のキャリーでした。

 

焦っていたし、ゆきちゃん運ぶのに要領を得なかったので、運転手さんにお詫びしてバスを降りました。今ならもしかしたら言い返していたかもしれませんが、その時の自分はインフルエンザにかかって会社を早退した時ぐらいに弱っていたので、何も考えられずとにかく謝りました。しかし言い返せなくて良かったと思うようにしています。猫さんに対しての見方が一様ではなく、多様であると認識することも大事かなと思うからです。かなりショックな出来事ではありましたけど。

 

そうして「猫のお母さん」からゆきちゃんを譲り受けて数十分でしたが、気持ちとしてはようやく、なんとか動物病院にたどり着くことができました。おそらくはゆきちゃんと同様、自分としても生まれて初めての動物病院です。緊張していましたが、小さな動物病院の待合室で聞こえてきた、先生と診察を受けている飼い主さんの話を聞いて少し安心しました。

 

詳しい事情はわかりませんが、以前飼い主さんが面倒を見ていたと思われるペットの話のようで、先生が「あそこまで面倒見てもらえたらね、きっと幸せだったと思うよ。」と声をかけていました。飼い主さん泣いてましたが、僕も思わずもらい泣きしそうでした。わかる人少ないかもしれなくて恐縮ですが、「稲中」の前野と井沢にゲイ疑惑が持ち上がり、二人して励ましあっている話を聞いてしまった田中のように、僕はきっと鼻を赤くしていました。

 

待合室には他にもお二人ほど、自分の前に順番を待っている方がいました。自然と今日はどうしたんですか?という感じで声をかけあう空間でした。お互いの状況を説明しているうちにゆきちゃんの診察の順番になりました。

 

まずは挨拶をして、病院行ったら「猫のお母さん」が自分から紹介されたって言いなさいよってことだったので、その旨を先生に伝えました。そうしてまずは「猫のお母さん」の話になり、動物病院に来た経緯などを先生に話しました。

 

ゆきちゃんは生まれつきかどうか、上下の犬歯以外の歯がほとんどありませんでした。また、毛が生えていないハゲちゃってる場所も2箇所ありました。それらはおそらく今後もそのままだろうということでした。しかしそれ以外は問題なさそうとのことで、ちょっとした健康状態の診察とあとはフロントラインなんかをつけてもらい、多分注射も一本打ってもらったような記憶があります。

 

そして会計ですが、信じられないことに1000円しか請求されませんでした。それは自分がとてもみすぼらしかったとかそういう理由でもおそらくなくって、野良猫の保護とかにとても理解のある先生だったのだと思います。診察中も「最近はもう野良犬とかはいなくなったけど、猫はまだたくさんいるんだよね。」とおっしゃってました。その後、引っ越すまでその動物病院にお世話になりましたが、料金はずっと良心的というかおそらく相場よりずっと低い設定でした。

 

長い1日でしたが、ゆきちゃんを無事動物病院に連れて行くことができて、ようやく家に帰ることができました。その夜、ゆきちゃんは大変よく泣きました。飼い主は長い1日はまだ終わっていなかったんだと悟り、軽く泣きたくなりました。しかしそんなことは想定内で、次の日はちゃんと休みを取っていたので、まずはほっと一息ついたのでした。

 

たぶん来て間もない頃のゆきちゃん(痩せてる!

 

ゆきちゃんの名前の由来

猫のお母さんに子猫を預かってもらって、3日後ぐらいかな、子猫を迎えに行きました。

 

その子猫の名前は「ゆきちゃん」と決めていました。それには理由があって、実は高校の時に数ヶ月間子猫の世話をしていたことがあります。今でも思い出すと相当に無責任な話なのですが…。

 

当時、高校が家から通えない距離だったため寮に入っていました。そこでの生活も早三年、受験を控えた年でしたが、ある日小さな子猫がやって来ました。なぜ子猫がその寮に来たかというと、数日前に他の寮生何名かが一度保護して寮でご飯をあげたそうです。でも飼ってあげることができないから元いた場所に戻したそうなんです。ところがその子猫、数日後に寮に戻ってきました。その子猫の可愛らしさと、きっと一生懸命探して寮に戻って来たことを考えると、無計画にもほどがありますが自分が世話をすると言いだしました。

 

携帯電話もネットもまだない時代、情報収集の手段がそれほどなくて、避妊や去勢の知識もなく猫なんてなんでも食べるんだろうしトイレもどっかでできるんだよね?ぐらいの認識しかなく、唯一の情報源はクラスの猫飼ってる女子しかいませんでした。本当にあの猫に申し訳ない。

 

そこの寮の管理人は近所でスーパーを経営するまだ30代ぐらいの血気盛んなお方(奥さん美人)で、高校の時は空手が相当に強くて、県内では大会に出ると「優勝」「優勝」「準優勝」「優勝」という感じの歴戦の猛者だったそうです。時代が違いますから、僕らが夜中にこっそり寮を抜け出してカラオケなんか行ってそれがバレた日なんかは全員並ばされて(連帯責任で行ってない寮生までw)、一人ずつパンチのきいたビンタを頂いたものです。ですから猫を寮で世話するのもかなりのリスクを追うことになるのですが、田舎のアホ丸出しな高校3年生はそこまで頭が回らなかったりしたのです。

 

そうしてその子猫を世話するようになり、いつでも出入りできるようにと、学校行っている時は少しだけ窓を開けて行くようにしました。部屋にはカリカリなんかが置いてあったので、ある日学校から帰ると知らない猫がカリカリを食べ散らかしている現場を目撃することもありましたが、寮管(空手の達人の寮の管理人)に見つかることなく数ヶ月過ごすことができました。

 

その子猫が来たのがもう秋口だったので、毎日夜は布団で一緒に寝ていました。一度だけ2日ほど帰ってこなくて学校行っても気が気ではなかったものでした。僕の部屋は二階だったけど、猫は隣の建物の一階の屋根をつたって入って来られるつくりでした。帰って来なかったその2日間はすでに寒くなっていましたが、いつでも帰れるように猫が入れるぐらい開けて寝てました。そうすると3日目でしょうか、夜中に突然戻って来てくれたのですが意識朦朧としている中で布団に潜り込もうとしてくる物体にかなり驚かされました。

 

ねこが来たのが秋頃、帰って来なかった2日間はすでに冬、そしてすぐ春にもなり、僕は受験に失敗しました。予備校に通うことになり、退寮の日が来ました。当日、僕は猫をほったらかして寮に置いて出て来ました。

 

また、その猫をひとりぼっちにさせてしまいました。なぜそんなことができたのか、今ではあまり覚えていません。きっと都合が良くないから思い出さないようにしていて、記憶が薄れてしまったのだと思います。

 

なんとか後輩や寮母さんが面倒見てくれて、最終的に寮母さんが自分の家に連れて行って世話してくれることになり、雌猫でしたが、そこでたくさんの子供を産んだことを数ヶ月後に知りました。寮に残っていた後輩と連絡を取ることもあり、そんな嬉しい知らせを聞くことができました。寮母さんはその猫を「ゆきちゃん」と名付けたことを聞きました。

 

普段自分は「マーブル」という、猫を飼っているクラスの女子が名付けてくれた名前で呼んでいましたが、実は僕はその名前をあんまり気に入ってはなかったという…。

 

初代ゆきちゃんと僕

 

そうして重ね重ね無責任ですが、次に動物を迎えることがあれば、僕も「ゆきちゃん」と名付けて最後まで一生面倒をみようと思ったのです。なので、今うちにいる猫の名前は「ゆきちゃん」なのです。